カクテル療法は、初めエイズ治療の画期的な発見としてスタート

感染症あれこれ

 このほど厚労省により認可された新型コロナの治療薬は「抗体カクテル」と呼ばれている。

 いわゆる「カクテル療法」は、1990年代に発見された、エイズの治療法である。1981年にエイズ(AIDS, Aquired Immunodeficiency Syndrome; 後天性免疫不全症候群)という原因不明の病気が見つかり、その原因究明に2年を要し、1983年にフランスのパスツール研究所の研究グループによってHIV(Human Immunodeficiency Virus;ヒト免疫不全ウイルス)がその原因であることが報告された。

 この治療には、当初単一の薬剤が使われていた。現在の新型コロナウイルスと同じく、他の感染症やがんの治療を目的に開発されていた薬剤(多くのボツになっていた薬剤も含め)の効果を調べ、エイズ治療目的に転用されていた。しかし、多くの薬剤が、使い始めは効果的であったが、だんだんと効きが悪くなっていった。すなわち、処方されていた薬剤が、HIVが増えるのに必須であるHIVたんぱく質を攻撃するために、このたんぱく質の情報を記録している遺伝子に変異が起こったものが発生し、この変異株がだんだんと主流になり、それらの薬剤の効果が低下していった。

 そもそもウイルスは、どんどん増えることが仕事である。まず、ウイルス粒子の表面のたんぱく質HIVの場合にはgp120と呼ばれるたんぱく質)が、受容体となるCD4を表面に発現している免疫細胞を見つけて、gp120-CD4を介して細胞に吸着し感染を成立させる。その後は、その感染した細胞を使って、持ち込んだウイルの遺伝情報(ゲノム)にしたがってそれぞれの役割を担ったたんぱく質を作らせ、そしてそのウイルスたんぱく質を作るためのゲノムもコピーをたくさん作らせる。その後は、ゲノムを包み込む形で粒子を形成する。このウイルスのゲノムのコピーを作る段階で、読み間違いを起こしてしまう。この読み間違いが変異株の出現につながる。その読み間違いは、ある一定の頻度で起こる。HIVの場合は9,000個のヌクレオチド(遺伝情報を蓄えるゲノムの基本単位)でできているが、この9,000個を読む間にどこか(ランダム=決まってなく、でたらめに)1ヵ所だけ読み間違える。読み間違えた場所によっては、次の世代を担うウイルスにはなれずに淘汰されてしまうが、上記のような薬剤によって攻撃されている場所を読み間違えた場合には、その薬剤の影響を受けずに、しかも次の世代を担うための増殖力も維持したウイルスが出現し、薬剤が投与されても、ほとんど影響を受けずに増え続ける、まさに変異株の出現となる。

 ここで、この変異株が一定の頻度で出現することにヒントを得て、2-3ヵ所を攻撃する何種類かの薬剤を同時に投与することを試したところ、画期的な効果が認められた。これにより、カクテル療法とか多剤併用療法と呼ばれる治療薬が誕生した。




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