ウイルスが変異株を産み出す仕組み

感染症あれこれ

 ウイルスには遺伝子変異がつきものである。ただ、変異する頻度はウイルスによって違う。

 ウイルスは、子孫ウイルスを産生するために、その情報源としてゲノムをもち、それを保護するために蛋白質で包み込んでいる。その遺伝情報を収めているゲノムにはDNAのウイルスとRNAのウイルスがある。一般に、DNAゲノムをもつウイルスは、ほぼ遺伝子変異をしない。遺伝子変異の頻度が高いウイルスは、RNAゲノムをもつウイルスである。その代表はインフルエンザウイルスやHIVなどである。最近話題のパンデミックウイルスである新型コロナウイルスRNAウイルスである。

 ここで、RNAウイルスの一つであるHIVの薬剤耐性株の出現の仕組みについて説明する(図)。

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HIVRNAウイルス)のRNAゲノムコピーミスと薬剤耐性
(たいせつな家族を感染症から守る本」講談社(2021年5月発行、生田和良 著)を転用

 HIVの場合には、ゲノム(RNA核酸の基本単位であるヌクレオチドが9000個つながっている)をコピーする間にどこかに(ランダムに)1か所程度読み間違いを起こす。したがって、1つの薬剤で、9000個の中の1か所を狙った場合には、その狙ったところで読み間違えたコピー産物をゲノムにしたウイルスはこの薬剤存在下でも増え続けるので、薬剤耐性株の出現となる。しかし、3つの薬剤で、それぞれに異なるところを狙った場合には、9000個のヌクレオチドで構成するゲノム上に、3か所ともに読み間違えるほどの頻度では起こせないので、3剤のカクテルで処方された患者は、もう薬剤耐性株で苦しむことはなくなった。HIV感染者では、このカクテル療法が一般的になっている。




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