ペットからうつる感染症

ウイルス感染症

 

犬と女の子のイラスト(ペット)猫と男の子のイラスト(ペット) 

 犬や猫を飼っておられる家庭では、人間にもうつるかも知れない感染症を持っているのではないかと心配になると思います。

 特に、最近では少子高齢社会といって、高齢者のみで暮しておられる家庭ではペットが重要な役割を担っていると思います。

 ヒトと動物のあいだを行き来できるウイルスや細菌などの感染症人獣共通感染症といいます。その代表として知られている狂犬病も、中高年の人は少しは聞いたことがありそうですが、今では患者も発生しておらず、どういう感染症なのかも理解されている方も少なくなっていると思います。狂犬病の他にもペットや動物からヒトにうつる、いろいろな感染症があります。ここでは、そのようなっ人獣共通感染症のいくつかを取り上げて簡単に紹介したいと思います。

狂犬病は、多くの諸外国では今も現役の感染症

 狂犬病狂犬病ウイルスが原因であり、このウイルスに感染した動物に噛まれることで感染する。感染した動物は、唾液中にウイルスをためているので、狂犬病ウイルスは噛まれたところから、末梢神経細胞(腕や足に分布している神経細胞)を伝って、中枢神経系(脳)に向かって毎日少しずつ移動している。脳に到達してしまうと、ほぼ100%死亡する。もし、あらかじめワクチン接種をしていれば噛まれた場所から狂犬病ウイルスの移動を止めることが可能である。もし、このワクチン接種をしていなくても、直ちにワクチン接種(かなり頻回で行うことが決められている)を行えば止めることが可能とされている。このワクチン接種で、狂犬病ウイルスと結合できる抗体ができてくる段階で、移動中の狂犬病ウイルスが脳にたどり着くまでの場所であれば、そこで止めてくれることが期待できる。

 日本では患者がいなくなって久しい(海外で感染し、帰国後に発症した例を除くと、1957年のネコの感染報告が最後で、それ以降は狂犬病の発生は確認されていない)が、海外ではほとんどの国で、今も患者が発生している。そのため渡航先の状態を調べて出かけることが重要である。場合によっては、渡航前に狂犬病ワクチンの接種も必要である。

 多くの東南アジアの国々では、イヌやネコが狂犬病ウイルスに感染している可能性が否定できない。イヌやネコ以外にも、コウモリやアライグマ、スカンク、キツネ、そのほかのほとんどの動物も、この狂犬病ウイルスに感染している可能性がある。ヒトからヒトにうつるケースはなく、臓器移植などの例外的な場合のみについて報告例がある。

  • 一口メモ「犬の届け出やワクチン接種率は?」

 イヌの登録数は、623万頭ほど(平成30年度)であるらしい。でも、イヌの狂犬病のワクチン接種頭数は、444万頭ほどで、ワクチン接種率は71%程度と、少ないない?実際には、もっと多くのイヌがワクチン接種されていないのではないかと考えられているらしいよ。もうひとつ懸念される点は、日本ではイヌのみがワクチンの対象動物になっており、他の動物は適応対象にされていないことかな。イヌだけの注意ではダメなんだね。

2)ネコひっかき病はその名の通り

ネコやイヌに引っかかれて、バルトネラ菌に感染する感染症(バルトネラ感染症ともいう)で、傷口が化膿し、発熱やリンパ節が腫れてくる。この菌は、ノミの吸血で、ネコやイヌの間で広がっている。ネコやイヌでは常在菌(健康な動物の体内で常時存在している細菌)として存在しているだけなので、ネコやイヌにとって無症状である。

 ネコやイヌの爪の手入れが、予防には大事である。家で飼っているペット以外にも、野良猫はバルトネラ菌の保有率が高いので、近づかないことも大事である。

3) コリネバクテリウム・ウルセランス感染症

 コリネバクテリウム・ウルセランス菌は、ヒトの他に、イヌ、ネコ、ウシ以外にも、さまざまな動物において感染事例が確認されている細菌である。この細菌は、ジフテリア菌と同じく、コリネバクテリウム属に分類される。臨床症状もジフテリアに似ており、風邪様の発熱や鼻水などから始まるが、その後に喉が痛くなり、咳の症状が見られるようになる。稀なケースであるが、重症化すると、呼吸困難などで死亡する例もある。動物と触れ合った後は手洗いが大事である。ヒトからヒトに移った事例の報告はない。

4) トキソプラズマ

 トキソプラズマという原虫(単細胞の寄生虫で、特に病原性のあるものについていうことが多い)による感染症である。ほぼ全ての動物(哺乳類や鳥類)の体内に寄生している。感染した動物の排泄物や、土の中などにも存在している。感染は、手指の傷口から感染することが多い

 通常、健康体であればトキソプラズマに感染しても特別の症状が出ることはないが、感染した一部の人では、リンパ節の腫れ、発熱をはじめ、さまざまな体調の悪さがみられる。

 妊娠中の女性が感染し、母体を通じて胎児に感染すると「先天性トキソプラズマ症」を発症し、流産や死産の原因となり、また新生児の目や脳に重篤な障害が生じることがある。免疫状態の悪い人は気をつける必要がある。

5) パスツレラ症

 パスツレラ菌は、イヌやネコのほとんどが、口腔内に常在菌として保有している。特に、ネコに噛まれることによりうつることが多い。また、ペットに口移しで餌をあたえるなど、過剰なスキンシップでうつることもあるので、注意が必要である。

高齢者や糖尿病などの基礎疾患のある患者が感染すると、呼吸器系の疾患、骨髄炎、敗血症など、全身の重症の感染症になる場合がある。

6) 重症熱性血小板減少症候群SFTS)はマダニが媒介する

 SFTSウイルスは、イノシシやアライグマが持っているウイルスであるが、ダニが媒介することでヒトにうつる。ダニといっても、シカやイノシシなどの野生動物が出没する野山や、畑、田んぼのあぜ道などに生息するマダニが媒介し、家ダニは媒介しない。

最近、イヌやネコなどのペットと濃厚に接触することで、ヒトにうつったとの報告もあり、調査が始められている。

 不思議なことに、ほとんどの患者は西日本でしかみられない。しかし、患者発生の報告がない地域においても、マダニからSFTSウイルス遺伝子が見つかっているので、まだ不明なところが多い。

 

 

7) オウム病クラミジア

 インコ、オウム、ハトなどがオウム病クラミジアに感染している場合、その乾燥した排泄物に含まれ、それを吸い込むことでヒトにうつる。ドバトの保有率は20%にも及ぶといわれている。排泄物以外にも、ペットとのふれあいや動物園のショーなどでやりがちな口移しの給餌も危険である。ヒトは軽症の気道感染から、肺炎や髄膜炎などを発症する。

 8)E型肝炎

 E型肝炎ウイルスは、経口感染し、急性肝炎を引き起こす(経口感染で急性肝炎を起こすウイルスにA型肝炎ウイルスがあるが、こちらのA型肝炎ウイルスは人にのみ感染する)。このウイルスは、糞便に排泄される。ヒト以外に、ブタ、そしてイノシシやシカなどの野生動物にも感染する。これらの動物の生肉の摂取により感染例が報告されている。最近はジビエ料理が人気であるが、野生動物の肉は、十分な加熱後に食べるように心がける必要がある。

  • 一口メモ「肝炎ウイルスはどんなものがある?

 食べ物でうつるA型肝炎ウイルス、E型肝炎ウイルス以外に、B型肝炎ウイルスはよく聞くよね。集団予防接種によって感染し、健康被害を受けた人に対する給付金の件で、テレビでよく報道しているように、これは血清肝炎といって、輸血や性交渉でうつるウイルスらしいね。また、C型肝炎ウイルスも輸血など、血液を介してうつるらしいよ。

9) 鳥インフルエンザ

 インフルエンザウイルスは、そもそもトリの中でも水禽(すいきん)類(水鳥)が自然感染しているウイルスで、トリには症状はみられない。ヒトとトリの両方が感染するのはA型のウイルスのみである。しかし、トリが持っているA型のインフルエンザウイルスがヒトにうつることはなく、トリとヒトのインフルエンザウイルスの両方を受け入れるブタを経由することが多かった。ところが、トリからヒトに直接うつるインフルエンザウイルスが、1997年に香港の市場で出現した。そのウイルスは、H5N1の高病原性鳥インフルエンザウイルスで、そもそもニワトリに強い病原性を示す型であり、一般的にはヒトに感染することは極めて稀であった。ただ、このウイルスは、トリの羽をむしるなどの調理作業でうつるのではないかと考えられている。そのような濃厚接触(特に、肺の奥深くまで吸い込むなど)は、避けるべきである。

東南アジアやエジプトなど、鳥インフルエンザウイルスに感染した患者が多かった国では、生鳥市場で生きた鳥を買ってきて、家で調理することが一般的である。

野外には、鳥インフルエンザウイルスに感染した野鳥も飛んでいる。ただ、感染していても、ヒトと接触しないで飛んでいるだけの野鳥からはヒトにうつるとは思えないが、感染した鳥の体液や排泄物には大量の鳥インフルエンザウイルスが含まれているため、知らず知らずのうちに感染することもある。また、特に死んだ鳥に触れることは極めて危険である。

もし鳥インフルエンザウイルスにヒトが感染してしまったら、重症の肺炎を引き起こし、死亡する場合が多く、高い致死率になっている。そのため鳥インフルエンザウイルスに感染した養鶏場などは、直ちに全羽殺処分して地中に埋めるなどの対応が求められている。

現在は、同じく中国で、2013年に初めて発生した、H7N9の鳥インフルエンザウイルスが中国の一部の地域で流行し、現在も患者発生の報告がある。

 鳥インフルエンザウイルスは野鳥に感染している場合があるので、ペットとして飼っている鳥が野鳥と接触する機会は避ける必要がある。

10)新型コロナウイルスがペットに?

 コロナウイルスは、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、マウスなどの動物にもそれぞれ存在している。多くは下痢症など、腸に感染することで発症する場合が多く、ウシコロナウイルスの下痢症を予防するワクチンはすでに開発され、実用化している。

新型コロナウイルスSARSCoV-2)の起源はコウモリではないかといわれているがまだ不明なところが多い。

これまでに海外で、この「コロナウイルスに感染したヒトからイヌやネコにうつった」という事例が数例報告されている。また、動物園のトラの感染例も報告されている。ただ、症状は見られない、もしくは軽いといわれている。ネコでの実験では容易にネコからネコにうつることが最近、東京大学の研究グループにより証明され、報告された。




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