RSウイルスはどんなウイルス?
RSとはレスピラトリ シンシティアル(respiratory syncytial)の略で、「呼吸器合胞体」と翻訳される。培養細胞に感染させると、ウイルスが感染して増えるに伴い、感染した細胞同士がくっついて大きな細胞、すなわち細胞融合した多核の巨細胞(これを合胞体という)が作られるので、この名が付けられている。乳幼児に発熱や鼻水などの症状を引き起こす、呼吸器の感染症の原因となる。
生後1歳までに半数以上が、2歳までにほぼ100%の乳幼児が感染すると言われている。初めての感染で誘導される免疫が不十分で、その後の感染を完全には防御できないため、何回も感染し、発病を繰り返すことが多い。
通常は冬場に流行し、11月から12月にピークを迎える。近年では、夏に流行する傾向が見られることがあったが、2021年の今年は、これまでの流行期とは異なる4月に大流行している。図にみられるように、富山県、大阪府、福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県、宮崎県で大流行している。
図(大阪府済生会中津病院感染管理室室長・国立感染症研究所感染症疫学センター客員研究員・安井良則先生の記事から引用)
多くは軽症で経過するが、一部は咳がひどくなり、喘鳴(ぜいめい)と呼ばれる「ゼーゼー」「ヒューヒュー」などと表現される呼吸をするようになる。このような場合には、時に重症化するので気をつける必要がある。初めて感染する乳幼児の多く(70%)は数日で軽快するが、残る30%は重症化する場合がある。
乳幼児だけではなく、成人にも感染する。多くは繰り返し感染する例が多く、免疫を持っているので軽症に経過することが多い。ここで大事なポイントは、成人でも免疫力が落ちている場合には重症化する可能性があり、中には死亡例も報告されている点である。
感染ルートは、感染した人の周辺にいることで、感染した人が発する咳やくしゃみ、さらに会話を交わした際に飛び散るしぶき(飛沫)をあびたり、吸い込んだりすることで感染する、いわゆる飛沫感染が多い。同時に、飛び散った飛沫が付着しているドアノブなどを触った手で、自分の鼻や口に触れることで感染する接触感染も考えられる。したがって、こまめな手洗いはもちろんであるが、赤ちゃんが遊ぶおもちゃなども、アルコールや次亜塩素酸ナトリウムによる消毒や熱消毒が大事である。
抗ウイルス剤がなく、安全で有効なワクチンも開発されていない。対症療法のみである。
特筆すべきは、ウイルス感染症分野では唯一実用化されている抗体医薬が存在する。シナジスと呼ばれるモノクローナル抗体を使った抗ウイルス療法である(ワクチン接種では接種して数週間後に有効な抗体が作られるが、これと同様の効果が期待できる抗体を投与するので、即効性のワクチンともいえる。ただし、有効性があるのは1ヶ月なので月1回の頻度で投与する必要がある)。これは工場で大量生産しておいて、日本では、感染すると深刻な状態になる可能性のある、次のようなハイリスクグループに、医師の判断のもと、予防的に保険適用により投与可能となっている。
- 在胎期間(出生時の妊娠週数)が28週以下で、12ヶ月齢以下の乳幼児
- 在胎期間が29週~35週で、6ヶ月齢以下の乳児
- 過去6ヶ月以内に気管支肺異形成の治療を受けたことがある、24ヶ月齢以下の乳幼児
- 24ヶ月齢以下の血行動態に異常のある先天性心疾患の乳幼児
- 24ヶ月齢以下の免疫不全を伴う乳幼児
- 24ヶ月齢以下のダウン症候群の乳幼児