ウイルス感染症は、時に、私たちの健康に大きな影響を与える重要な問題である。新型コロナウイルス(COVID-19)は世界中で大流行し、私たちの生活に大きな変化をもたらした。現在も新たな変異株が出現し続けており、感染者数は減少傾向にあるものの、引き続き感染対策やワクチン接種が重要となっている。このウイルスに感染すると基礎疾患、特に糖尿病を患っている患者は重症化しやすいことが知られている。さらに驚くべきことに、糖尿病を患っていない人がこのウイルスに感染した場合に、一部の人に糖尿病の発症が認められたことが報告されている。
一方、エンテロウイルスは手足口病やヘルパンギーナ、また急性出血性結膜炎などの原因になっているなど、さまざまな病気を引き起こす。非常にたくさんのウイルスが、エンテロウイルスに分類されている。大変重要な情報として、エンテロウイルスの中には、1型糖尿病の発症に関与している可能性が、さまざまな疫学研究(たくさんの人を観察する研究)から示唆されている点が挙げられる。
1型糖尿病は、膵臓からのインシュリン産生量が低下することで発症するとされている。エンテロウイルスはこの膵臓に感染し、膵臓にエンテロウイルスが棲むようになり(乗っ取られて)、膵臓の細胞表面に露出しているエンテロウイルス成分を異物として認識した免疫細胞から攻撃されるようになる(自己免疫疾患)。その結果として、インシュリン産生量の低下を招くと考えられる。
フィンランド・タンペレ大学の研究グループは、糖尿病の発症に関係のありそうなエンテロウイルスを数種選び、これらのウイルスに対する不活化ワクチンを開発した。このワクチンを用いて第3相治験を実施したところ、良好な結果が得られたと、最近報告している。1型糖尿病は、自己免疫疾患であり、特に小児に多く見られるので、このワクチンの開発が成功すると、1型糖尿病を患う小児をワクチン接種で減らせるのではないかと期待されている。